Good Local Shops

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2023.06.30

受け継いだ祖母の味と「常磐もの」を全国に届ける〈さすいち〉小野さん。
いくつもの課題を乗り越えながら守ってきたのは、誰もがほっとするやさしい煮魚の味でした。

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祖母から受け継いだ、
懐かしいさすいちの味。

〈さすいち〉は、小野さんの祖母がリヤカーで魚を売っていた行商時代から始まりました。それを小野さんの父が継ぎ、1979年には小名浜の街中に店舗を構えて魚の販売を行ってきました。すると利用者から「魚をここで食べて帰りたい」という声が寄せられるように。さらに、2001年には道路拡張によって店舗移転が決まったため、あわせて初めてのレストラン営業に挑戦することにしたのだとか。そこで小野さんが目指したのは、田舎を想像するような懐かしい祖母の味。刺身用に醤油屋と研究を重ねて作った醤油を煮魚に使ってみたところ、目指す味に近づいたといいます。

「肝っ玉母ちゃんのような祖母の作る煮魚の味が有名だったんです。塩も醤油も強くなく、ふんわりと魚のよさが引き立つ味。私も子どもの頃からおいしいと思っていました。お客様はその味をレストランに期待してくれていて、私たちも提供できることが嬉しかった。これが〈さすいち〉の味なんです」

移転先となったのは現在の店舗の裏側、小名浜港の目の前。東日本大震災の際にも営業していました。津波の被害で港が機能しなくなり、原発事故も重なった2011年。小野さんは魚の仕事を諦めることも考えたそう。

「でも、私たちを支えてくださる水産加工業協同組合の方々が、一丸となって負けずにやりましょうと声をかけてくださったんです。それもあって、小名浜の人は誰も仕事を辞めたり他の場所に移ったりはしていないです。とはいえ津波でお店の建物自体もダメになってしまったので、これから〈さすいち〉を継いでいく私がお店を大きくできるようにと思い、魚の直売店とレストランを個々に分けて再スタートしました」

誰でも簡単に、自宅で祖母の味を楽しめるように。たったひとりで研究を重ねた味の最終チェックは、祖母の味を知るご近所さんにお願いしたのだとか。

幼少期から小名浜の海沿いに暮らし、魚から離れることがなかったという小野さん。目の前にある海から獲れる「常磐もの」の新鮮な味を食べてもらうため、奔走してきました。

「親潮と黒潮のぶつかる海域が福島県沖にあり、そこで獲れる魚を常磐ものと呼んでいます。特にいわきの海には山からの水も流れ出し、良質なプランクトンが発生する。それを食べて育ったおいしい魚を、新鮮なうちに捌くことができるのがいわき、小名浜なんです」

特にいわき市の名物となっているメヒカリは、仕事を手伝い始めた学生時代の頃から愛着のある魚だったと小野さんは語ります。

「メヒカリは身が柔らかくて、すごく繊細なんです。私たちの気持ちが伝わる魚だと思います」

しかし、2020年にコロナ禍へ突入したことで、〈さすいち〉も休業を強いられてしまいます。そこで小野さんは、店舗から通販での販売に切り替えることを決断。冷凍で届いた常磐ものを湯煎すれば簡単に食べられるよう、さらなる味の調整を重ねました。

「休業前はご年配のお客様が多く、ご家族から料理を届けてほしいと言われることもありました。煮魚を届けること自体は簡単でしたが、電子レンジで温めると硬くなったり焦げたりと、おいしく食べられない方もいて。そのときに思いついたのが湯煎調理でした」

その成果が実り、現在ではお中元や母の日のギフトをはじめ、ゴルフの景品としても注文を受けることが多くなっています。

いわきという特別な海で獲れる
「常磐もの」と、
新鮮なうちに魚を捌ける故郷の小名浜。

レストランのスタートや震災とさまざまな課題を乗り越え、さらにはコロナの流行というピンチも「常磐もの」と祖母から受け継いだ煮魚の味を全国へ届ける機会へと変えた小野さん。現在は通販の商品を、小名浜の店舗にある調理場で作っているといいます。

「本来ならいつでもどうぞと言いたいところなのですが、通販のみでなんとか頑張っているところです。ご近所の方、観光でいらっしゃった方はお電話をいただければ、裏口からにはなりますが魚のご案内もさせていただきます。私のモットーは、食卓を囲む皆さんの笑顔のために魚を作ること。そんな思いで作られた魚を、ご家族の笑顔を見ながらおいしく食べていただけたらと思います」